21世紀の選択 第2弾 エピソード版

地球から4・3光年離れた 隣の太陽系であるケンタウルス系の第二惑星「カスピ」。そこには地球と同じ文明の営みがある。
 今でこそ高度な精神文明を有するカスピ文明だが そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。
 かつてカスピは現在の地球の様に自己欲にまみれ環境と経済の崩壊によって危機的状況であった。

砂漠での対決

私の名はスミダ。惑星カスピの田舎町バイカルに住む青年である。幼い頃から仲間外れで孤独な生活を送って来た。
学校嫌いで高校を中退しフリーター生活をしたが どのバイトも長続きせずブラブラしていた。
母は幼い時に他界し父に育てられた。
実家はバイク屋だったのでバイクの腕には絶対的な自信があった。
父はモトクロスのレーシングチームも持っていて私にレースの道を勧めたがチームメイトと馬が合わず 私は公道レーサーとして各地の峠で暴走ライダーとバトルを繰り返す日々が続いた。
そして全国の峠で無敵の速さを誇り、公道最速ライダーの称号をほしいままにした。
そんなある日、父のレーシングチームに私と同年の男エドが入門してきた。エドは私と違って素直で人の話をよく聞き、何でも気が付く奴だった。チームでも人気者だったが私にとっても唯一の良き相談相手であった。
エドはライダーとしても他人から何でも吸収し驚くほどメキメキと上達した。
僅か2年で国際A級に特別昇格し国内チャンピオンを狙うまでになっていた。
私はエドには絶対に負けられない得体の知れない妙なプライドに支配されていた。
エドへの敗北を恐れるようになってからというもの私はエドを避けるようになった。

そんなある日、エドは何を企んでか私を誘った。
エド「スミダ、久しぶりにツーリングにでも行かないか?今日は練習も無いし・・・。」
スミダ「別にいいけど・・・。」
私はこのツーリングが対決の場になるのでは?と恐れたが悟られたくないためか あえて拒まなかった。

我々が乗るバイクは公道走行可能ではあったがレーサーそのもののエンデューロバイクであった。
天気も良く、快適な林道走行を満喫した。
湖畔で休んでいると・・・。
エド「スミダ、天気も良い。どうだろう?ここから砂漠を超えてビワ山の頂上まで勝負しないか?」
スミダ「!!・・・・・。」
とおとお恐れていた事が現実となった。勝負を拒むことは私のプライドが許さなかった。
スミダ「国際A級になって俺に勝てるとでも思っているのか?」
私は何故か腹た立だしかった。
エド「いや、ただ自分を試したいだけだよ。」

やがて我々二人は砂漠を猛烈なスピードで走るライダーになっていた。
私は後ろを走るエドに自分の速さを見せつけんとばかりにフルスロットルを続けた。
それでもエドは離れることなく着いてくる。
この辺りから自然が作り出した凸凹による天然のジャンピングポイントが続く。
私は構わずフルスピードで次々と飛んで行った。
こんなにも本気で走ることはもしかして初めてかも知れない。峠ではいつも楽勝だったから。
それだけエドの存在が恐かった。勝つことしか知らない私にとって そのプライドはあまりに高く、傷付き易く、そしてもろかった。
私はエドを気にはなったが振り返る余裕は無かった。それに意識していることを悟られたくない。
そんな私の行く手に巨大な壁のようなジャンピングポイントが迫って来た。
それを避けては僅かに遅れてしまう。私は壁の向こうに何が待ち構えているとも知らず、フルスピードで突っ込んだ。
もう着地の計算などどうでも良かった。”敗北より死”という あまりにも若過ぎる価値観が私を支配していた。
スミダ「見ていろ!エド!!お前にこのジャンプができるか!?」
次の瞬間、バイクは宙を舞った。視界が一挙に開け、目前にゴールと決めたビワ山も迫って来た。
初めて後ろを振り返ると・・・
スミダ「!!・・・・・。嘘だろっ!!」
何とエドもバイクで空を飛んでいる。暫く我々二人は砂漠の上空を飛行した。
こんな自殺行為、エドにしたって安全なわけがない。エドにも勝たなくてはならない訳があるようだ。
この飛行中、何故か敗北の恐怖は木っ端微塵に吹き飛んだ。
公道レーサーではなくモトクロスレーサーに変貌したのだ。
それこそエドが見たかったスミダの姿であり、この勝負の目的でもあった。
やがて我々は着陸のライン取り計算に入った。
未知の衝撃、フルボトム、2次的ジャンプ。バイクの立て直しはエドが勝っていて私は初めて頭を許し、今まで経験しなかった人の背を見ての走りとなった。
そしてその差もじょじょに開いていく。
私の がむしゃらで無謀な走りと違い 無駄の無い安定したエドの走りは私を魅了し 一瞬闘いを忘れさせる程だった。
日々過酷なトレーニングに耐え、トップレーサーと闘い続けてきたエドと公道で素人レーサーを相手に得意になっている私とではその差は歴然である。
今まで人の走りなど見もせず自分の走りしか知らない私にとってエドの完成された美し過ぎる走りは私の安っぽい価値観など完全に打ち砕いてしまった。
それでも私はエドに勝つためスロットルを開け続けた。やがて私はバイクをコントロールできずに転倒し、それに気付かずエドは消え、砂ぼこりに包まれた。

野宿の旅

エドとの闘いで今までの生活に行き詰った私はバイクにテント等を載せ旅に出た。
途中途中でバイトをして食費とガス代を稼いでは移動するという生活である。
旅を続けながら色々考えた。
何故学校が嫌いで、友達をできなかったのだろう?・・・!目的が無かったんだ。何をしたいのか分からなかったから・・・。
エドみたいに目的がはっきりしている奴は良い。しかし今の社会は目的の無い迷える者で溢れている。そういう奴等が変な道に行く。でもこの社会で目的を持てというのが無理な話だ。
政治家達は私服を肥やし、民はただ非難ばかりするだけで何の解決もしようとはしない。
会社に入れば他の社員、他社と蹴落とし合い、より良いサービスのためとかほざく。
みんな調子の良いことばかりいうが結局自分のことしか考えていない。
経済的にも環境的にも崩壊に向かっていることは確かで未来に希望が持てない。
そう、”この社会には私の居場所が無いのだ。”
夜、野宿のテントの中で泣いていて ふと夜空を眺めると そこには満天の星達が瞬いている。
スミダ「俺の悩みなんて この大宇宙に比べたら 取るに足らない事なのだどうか?」
今まで何も考えず 突っ走って来たのが嘘のようにエドの負けてからというもの考え込む日々が続いた。

ある町では配達の仕事、漁港では海も仕事、山では林業の手伝い、高原では牧場や農家の仕事、色々やった。
確かにそこには暖かい人の温もりを感じるが何処もみんな生活に追われている。
家賃、税金、生活費に縛られ人生の殆どの時間を金に支配されている。それでも彼らはそれが当然と疑問にも思わない。
当然、頭の中も金のトリコになっている。何か間違っているように思えて仕方ない。
それでも私は長期滞在する訳でなく、すぐバイクで出て一人になれたので我慢できた。
そうして時が流れていった。私は一生、自分の居場所を見付けられずにさまようのか?そんな先を考えることなく今日という日を生き続けた。
やがて国境を越え言葉も知らない国にさまよい込んだ。国境を通る度にパスポート、ビザ、書類チェックが必要で どうして人間って奴はややこしい国境なんて線を引いて殺し合いをするのだろうか?
旅をすればするほど疑問が多くなる。
砂漠超えはきつかった。食料は途中の集落で何とか調達できたがバイクのガスの調達は時には困難を極めた。時には命の危険にもさらされる。
そんなヘンピで非文明的な僻地を行くと信じられない光景を目にすることが多くなる。
道端で餓死する子供達、先進国から持ち込まれる産業廃棄物の山、先進国が切り倒したはげ山、そしてあまりに貧しすぎる人々の生活。
バイクで気楽な旅をしている自分が恥ずかしくも思えた。

危険な砂漠越え

ある日、私は危険な砂漠超えに挑んだ。砂丘でタイヤが深みにはまるのでバイクでは越えられないと現地の人は言ったが 何かに導かれるように私はバイクを走らせた。
バイクの運転では絶対的自信を持つ私でもかなりの難所だった。食料もガスも少なくなり不安になる。
砂丘を超え大地が硬くなり走り易くなったので調子に乗って猛スピードを出したところ、砂漠を走っているうちに視力の感覚が麻痺して段差を見逃し崖からバイクごと転落し、私は全身を強打し何箇所か骨折し身動きができなかった。
スミダ「ここが俺の死に場所か・・。」
私は完全に観念していた。無理もない。こんな砂漠のど真ん中で助かる道理が無いのだから・・・。
骨折であまりの激痛に私は気を失った。

その後、うつらうつら私はラクダに揺られていた記憶があったようななかったような・・・。
気が付くと私はある集落のお粗末な病院のベットで横になっていて体中包帯の姿であった。勿論動ける状態ではない。
集落にカタコトの言葉をしゃべれる者が居て彼の話によれば 接骨士が完全な治療はしたが回復には何ヶ月も掛かるのでここで気を使わずのんびりするように、そしてここには電気も無く、通信手段も無いということだった。
松葉杖で何とか身動きが取れる様になると私は集落で唯一の学校で子供達に混じって国語を習い、ここの言葉を習得していった。
この集落には警察も刑務所も法律も金も電気、ガス、水道すら無いにもかかわらず生活が成り立っている。
金に支配されない、私が求めていた何かがここにはあった。
ある日、集落の長老ガンジスに呼ばれ彼の粗末な家に行った。
ガンジス「だいぶ元気になられたのう。あの時は駄目だと思ったが・・・。」
スミダ「お陰様で・・・。本当にありがとうございます。」
ガンジス「ところでスミダ、今後の予定はおありかな?」
スミダ「いえっ、別に・・。ただ世界をさまよっているだけです。」
ガンジス「では、どうだろう?スミダ、ここで暫く落ち着く気はないかね?そしてソナタの命、私に貰えないだろうか?君には無限の可能性をかんじる。」

元々世界に居場所の無いこの身。そして何よりガンジスの目は済みきっていて一点の汚れ、自己欲さえも感じない。

スミダ「どうせ一度は死んだこの命、長老、こんな私でお役になれるのなら喜んで。」

その日以来、私はガンジスの家で住むようになり彼から様々なことを学ぶ日々が続いた。

スミダ「長老、私はこの集落でただ飯を食べている。私もみんなと働きたいのですが・・・。」
ガンジス「この集落で君にいやな顔をする者が一人でも居るかね?居ないだろう。みんな自分の役割りを心得ているのじゃ。君には君の役割りがある。余計な気使いは無用じゃ。」

一日中、勉強するのも苦痛であったのでガンジスに頼んで午前中はみんなと野良仕事を楽しんだ。
ガンジスの教えによると 世界がこのまま自己欲に任せて経済競争を続けたら 自然破壊によって世界が近いうちに滅ぶという事実。そしてこの集落だけの幸福はありえず全人類は運命共同体であることであった。
ガンジスの企みは全世界を変えること。その手段として武力、正論武装、金や権力は何の役にも立たないと言う。
変える手段は人々の心であり、先ずは新しい価値観を提案することである。

私は後で知ったがこの集落はエリーといい、ヒューロン共和国という貧しい国の一部であった。
ガンジスはこの国の政治家でもあって、大統領を操る権力をも持っていた。
彼は私にヒューロン共和国の大統領になれと言う。全てはそこから始まるのだと言う。
しかし、国連加盟国でもない こんな小さな国の大統領になったところで世界は何も変わらないだろうに・・・。

ガンジスは私に打ち明けた。
ガンジス「私の野望は世界征服じゃ。そのためには武器も金も権力も不要でな。スミダ、君の力が要るのじゃ。」
スミダ「冗談じゃない!私にそんな力、能力はありません。」
ガンジス「いや、君はまだ自分の価値を知らんじゃろ。君がここに運ばれたのは偶然でない。神のお導き、必然だったのじゃ。君の目は常識の流れに流されることなく、独創性に満ちている。君がこの国を治めるのじゃ。」

つづく