皆様は 今のこの世界に満足だろうか?
これだけ科学が進んでも 毎日仕事と金に縛られる日々に疑問を感じませんか?
矛盾だらけの社会で 自分に嘘を吐き 不自然体でいる我々現代人の多くは心を病んでいます。
我国だけでも 年間3万人の方々が自殺し、世界では 年間1億人以上の方々が餓死しています。そして凶悪事件も後を絶たず、自分さえ良ければいいという世の中になってしまいました。
一つ確かなことは 近い将来、我々地球文明は 経済的にも環境的にも限界に達し 文明の危機が訪れます。それは多くの人が察していることで 今の我々は目的も夢も見失っています。
もう今までの考え方では限界に来ており 我々は大きな選択をする時期に来ています。それが
「21世紀の選択」なのです。
でも よく考えると この21世紀の危機を乗り越えることは決して難しくないことに気付きます。地球環境を壊さず、全ての人が富を得て、法や金に縛られることなく、希望に満ちた生活を送る。そんな夢物語は 我々の心一つで簡単に実現してしまうのです。
でも多くの人は「そんな馬鹿な!」と信じないでしょう。何故信じないのでしょう? それは「地球社会」という名のマインドコントロールに掛かっていて他の発想ができなくなってしまっていることに他ありません。
ここで地球の未来について討論し 正論合戦をしてもなんの解決にもなりません。一旦地球を離れ 外から地球を見てみようではありませんか。きっと計り知れない発見がある筈です。
夜空に輝く星たちに問いかけたい。他の文明は どのようにして21世紀の選択をしたのかと・・・・・
21世紀の選択
カンダ 男 火星人二世 B型
火星・オリムポス南麓市に 生まれ育つ。
環境循環生活の実績が買われ 人類初の恒星間ミッション 「ケンタウルス計画」の
メンバーに選ばれる。
時は未来の地球文明、舞台は火星。
かつては温暖で海も存在した火星。今もその痕跡を見ることができる。

オリムポス南麓市 通称「村」
私の名は カンダ。火星人2世の青年で オリムポス南麓市で生まれ育った。私の故郷は 数少ない火星基地の中でも赤道直下に位置し 最も温暖な地域だが それでも氷点下20度を超えることは無く、また大気はあまりにも希薄で 一歩外に出れば
それは死を意味する。もちろん ここには知る限り生物は存在しない。不毛の赤一色の大地が何処までも続いていて 聞こえるのは無生物界の大地を襲う砂嵐の音だけだ。しかし そんな火星でも 地球に最もよく似た第二のオアシスと人々は言う。ここに
しっかりした大地があり 四季もある。一日は24時間37分23秒で地球とさほど変わらない。また希薄ながら大気もあり 川や海こそ無いが 地下には大量の氷があり 中には地熱によってできる液体の水も存在する。事実 我々は 南オリムポス温泉の湯を楽しんでいる。
かつて ここ火星は とても温暖で 大気も水も豊富で海もあり 生命体も宿していたらしい。我々の使命は 火星を再び温暖化し、川や海を復活させ、植物を茂らせ、緑化し酸素を作り出し、最終的には人間が住める環境にすること、すなわち テラフォー
ミングである。
かつて海があった頃の火星 オリムポス山
ここ オリムポス南麓市は 人々から「村」と呼ばれ ほとんどは自給自足の生活を営んでいる。電力は人工衛星のソーラーエネルギーをマイクロ波送電によって村に送られ、火星の強風を利用した風力発電や地熱発電もある。水も豊富で 食物栽培ドームも
充分な広さで 地球人が思う程の不便さは感じない。
温暖化後 オリムポス山 北西に出現予定の オリムポス湖
村の北側には 太陽系最高峰のオリムポス山がそびえ立つ。この山は富士山に似たカ ルデラ火山だが高さは 約25,000mもあり 宇宙空間まで突き出してしまう程のとんでもない高さである。もちろん地球最高峰のチョモランマや金星最高峰のマックスウェルの比ではない。
私はこの村で生まれ 火星の赤い土の恵みで成長したが 村の外は生物の無い死の世界が何処までも続いていて 考えてみれば不自由で孤独である。
そんなある日、地球では歴史を変える大発明があった。スーパーラムジェットエンジ ンという超高速ロケットである。
従来の宇宙船だと 火星から地球まで大接近時でも 150日を要したが 発明されたエンジンを使えば その日の内に到着してしまう。また ひたすら加速を続ければ光速の50%が可能で 他の恒星まで行く計画も進められた。 この発明によって 人類は太陽系内を自由に飛び回るようになり 惑星間旅行という 新たなビジネスも誕生した。
中でも唯一着陸できる火星旅行に人気が集中した。木星を 始めとする外惑星は巨大で重力が強すぎ着陸する大地さえ無い ガス惑星である。金星
は480度という とんでもない灼熱の世界で大気の圧力は地球の90倍もあり とても着
陸できる環境ではない。
新型ロケット発明以来 私の村にも観光客が来るようになった。オリムポス山の絶景を眺めながらの温泉は まさしく観光の目玉だった。火星車でのオリムポススカイライ ンへのドライブや 火星飛行機でのマリネス峡谷への飛行は 地球のヒマヤラやグラン ドキャニオンとは全く比べものにならないスケールが満喫できる。
かつてテラフォーミングだけが目的だったこの村も一変してしまった。そんな観光地化された村を 私の父 ゼンプクジは決して良く思わず 観光客が居るエリアには行かず、一日中 研究室に閉じこもったままだ。
父が行っている研究は火星外気に耐えられるコケ類の開発であり 火星緑化の第一歩といえる。
村には父のような各専門家たちが日々果てしない研究、実験を繰り返している。研究室には無数の試験管があり コケの遺伝子を組み替えるのだが その組み換え方法は それこそ半無限であり 一生かかっても答えの出ない無限パズルのようだ。残念ながら 父のコケは 火星外気では二日程しか生存できず 繁殖する段階にはほど遠い。
ゼンプクジ 男 火星人一世 B型
カンダの父親。 専門はバイオテクノロジー。
かつては地連の環境研究所に 勤務。地球から逃れるように 火星に渡りテラフォーミングに
一生を捧げる。
私の生活といえば 父の研究の手伝いと畑仕事が中心で あとはパソコンに向き合う毎日だった。ここでは情報、教育、通信、娯楽等 ほとんどパソコンに頼っている。そのパソコン通信で 私は大きな夢を掴もうとしていたが それは同時に大きな悩みでもあった。
ある日の夕方 私は久しぶりに研究室の父を誘った。
カンダ「父さん、たまにはコーヒーでもどう?」
ゼンプクジ「そうだな、最近そんなゆとりも忘れていたな。」
火星から見る 宵の地球
火星第一衛星 ファボス
火星第二衛星 ダイモス
二つの衛星とも極めて小さく球状にもなれない。
かつて この小さな衛星は火星人が作った人工衛星ではないかと騒がれた時期もあった。
喫茶室に行くと 窓には西の地平線上に浮かぶパヴォニス山に沈む黄昏で空がピンク色に輝き幻想的である。
火星界は大気が希薄なため 日没後すぐに星空のとばりとなる。
少しずつ動く星が二つ見えるが それはフォボスとダイモスという小さな月だ。
そして西の空に とてつもなく明るく輝く星が見えるが それが宵の地球である。
コーヒーを飲みながら地球に思いをはせていると・・・
ゼンプクジ「カンダ、お前 ここでよく そうやって地球を眺めているな。そんなに行きたいのか?」
カンダ「うん、でも父さんは地球が嫌なんだろ。だから わざわざここに・・・」
ゼンプクジ「地球社会は欲望の世界だからな。しかしここも観光地化され 地球人の馬鹿どもが来るようになり住みにくくなったものだ。」
カンダ「でも ここに来る地球人は みんな紳士淑女で いい人ばかりだよ。」
ゼンプクジ「カンダ、心無き正論に騙されるな。奴等はみんな金持ちだ。ここに観光旅行する金があれば 途上国の貧しい多くの命を救えるのだ。弱者を食いものにして富を得て、他人の命より自分の娯楽を大切にし 正論で飾る。理解し難い人種だ。」
私は父にうちあけたい事があったのだが切り出す機会を失っていた。しかし意外にも 父の方から・・・
ゼンプクジ「カンダ、ところで俺に話があるんだろ。」
カンダ「えっ!?どうしてその事を・・・」
ゼンプクジ「俺が一日中研究だけをしていると思うか?俺だってパソコンぐらい目を通すさ。それでお前、行くのか?」
新型ロケットの発明で ついに人類は隣りの恒星である ケンタウルス・アルファ星に有人船を送る「ケンタウルス計画」がスタートした。計画の一番の目的は 第二の地球探しである。
隣りの恒星といっても4.3光年という とんでもない距離だ。新型ロケットをもってしても片道9年、全行程20年という それこそ一生を捧げる大航海となる。若い乗組員12名が募集され 私は密かに応募したのだが それがなんと採用されてしまったのだ。
宇宙船という限られた空間で 完全リサイクルの生活をしなくてはならないが 火星の村で生まれ育った私には条件が良かったようだ。
カンダ「父さん、反対しないの?」
ゼンプクジ「お前の人生だからな。それに ここも地球人が来るようになり安全でなくなった。ここでは一人でも馬鹿な考えを起こせば 全員が死ぬ。ガラスにひとつ穴が開いただけでもだ。そんな死と隣り合わせの環境だ。
それに俺の計算では 地球文明は もう そう長くはない。俺のやっている研究なんて無意味な抵抗でしかない。
ケンタウルス計画は何か奇跡を起こしてくれるのではと 俺も密かに期待していた。俺のことは気にするな。」
この別れは おそらく一生の別れとなるだろう。父は私の決心が揺るがぬよう 強がっている。父は頑固で正直者だが 強がりな嘘をつく。幼い頃 母が死んだ時もそうだったように。
ゼンプクジ「今度の便で地球に発つがよい。」
カンダ「えっ!?だって計画が始まるのに まだ期間があるのに・・・どうして?」
ゼンプクジ「地球はここの3倍の重力だ。身体が慣れるのに時間が掛かる。
それに地球に行ったらお前に会わせたい人が居るんだ。」
その夜、私は父と 満天の星を眺めながら ケンタウルスの夢を語り合った。
憧れの地球へ
21世紀の危機を迎える地球
約一ヶ月後、私は宇宙船の窓から初めて地球を見たが 正に宇宙に浮かぶオアシス そのものだった。火星の死の大地とは異なり ここは大地、大気、雲、海、森 全てが生きている。
私はシャトルに乗り換え、地連(地球連邦政府)の中央宇宙港に着陸した。
火星では23キロだった体重がここでは60キロになり さすがに肉体的負担は大きく 地連のリハビリセンターの世話になり お陰で私の身体は しだいに地球に慣れていった。
20世紀までは戦争の世紀だったが 21世紀からはテロの世紀といわれ ここ地球社会はセキュルティにがんじがらめだった。隣りの部屋に行くにも許可書が必要で 入念にチェックされる。
施設の職員たちは感情の無いロボットのように命令された事をマニュアルどおりにこなし人間味を感じない。
リハビリも終わったある日、私に面会人が訪れた。彼こそ父が私に会わせたいと言った人物で 父の旧友 オビである。
私はオビに連れられ 初めて外に出た。オゾン層を失い汚染された地球は 外では外室服にマスクを着用しなくてはならい。
汚染された地球の街を歩く私とオビ
オビ 男 地球人 A型
地連 環境庁 環境対策研究所 所長。
ゼンプクジのかつての同僚であり旧友。
地球環境の危機的状況を誰よりも 知る一人。
収入のほとんどを 貧しい人々に分け質素な生活を 営んでいる。
レナ 女 地球人 O型
オビの妻。
オビの良き理解者で 地球の平和を願う一人。
オビ「カンダ君、君が一人で外室するだけで ここでは立派な犯罪となる。決して僕から離れないでくれ。」
カンダ「・・?はい、分かりました。でも どうしてです?」
オビ「君は地球のしきたりや法律を知らないから どんなトラブルに巻き込まれるか分からない。
だから僕が常に君を監視する義務と引き換えに 君の外室許可が出されたのだ。
ここでは少しでも不審な行動をとれば銃殺されかねない。知らない子供に声を掛けたり触れるだけで誘拐罪になるし、教科書意外の言葉を不用心に使えば暴言罪が適用される。だから何をするにしても全て僕に聞いてからにしてくれ。いたる所に防犯カメラ、盗聴器、発信機等で埋め尽くされ、空からは衛星カメラが目を光らせている。」
街は企業の看板やネオンだらけで競争社会と大量消費中毒の影を写していた。
オビ「何処か行きたい所はあるかな?」
カンダ「ええ!山歩きがしたいです。草木が茂っている山を 小川のせせらぎや小鳥のさえずりを聞きながら歩くなんて 火星ではできませんからね。」
オビ「確かにそうだね。でも残念だが それはできないな。」
カンダ「えっ!どうしてです?」
オビ「山や草原には たくさんの地雷が埋まっていて 一日数百人が命を落とし、数千人が手足を失っている。
君にはケンタウルス計画という 重要な任務があるんだ。今 君を殺す訳にはいかないな。」
カンダ「!!。・・でも・・どうして地雷が・・・?」
オビ「ここ地球社会は見た目には法と秩序の社会だが 水面下では人々の欲望がぶつかり合う弱肉強食の社会だ。
権力者たちは法と金で民を縛り上げるが 弱者たちは生きるために法を破るしかない。そして生きる術を失った多くの弱者は自殺する訳だが 最近では素直にタダで自殺してくれる者は少なくなり 多くは権力者に対して凶悪事件や自爆テロを起こす。地雷もその一つさ。
自殺希望者は20億人ともいわれ政府も手が付けられずにいる。
死を望む民に対しては 究極の抑止力である死刑さえも無力化しており 警察や刑務所も その機能を失いつつある。
だから ここでは法やセキュリティに縛られ 個性を捨て ロボットにならなくては社会が成り立たないんだ。
毎日新しい事件が起き、それに対して 毎日新しい法律ができる。もう身動きできない社会になってしまった。」
父が火星に逃れた理由がよく分かった。父の気性からして とてもここでは生きられないだろう。
私はオビの家にお邪魔した。小さな集合住宅でとても質素だ。オビの妻 レナが暖かく迎えてくれた。
我々三人は小さなテーブルを囲って お茶を楽しんだ。
カンダ「お子さんは居ないのですか?」
レナ「娘が一人。でも独立して出て行ったわ。無理も無い、こんな質素な生活では 今の若者には退屈過ぎるでしょうからね。」
カンダ「・・・? でも オビさんは地連の環境庁にお勤めでしょ?収入だって多いはずなのに・・・」
オビ「確かに僕の収入は多いよ。どんな贅沢だってできる。仮に仕事を辞めても莫大な退職金がもらえるし 死ぬまで高額な年金ももらえる。それなのに 僕がこんな貧しい生活をしているのは 君のお父さんのせいだよ。彼と出会ったのが運のつきだった(笑)。」
父は私に自分の過去について ほとんど話してくれなかったが オビから聞くことになった。
オビ「君の父 ゼンプクジも かつては地連の研究室に居て僕とは同僚だったんだ。
バイオが専門でね。とても優秀だったよ。でも職場では誰とも馬が合わず いつも研究室に閉こもっていた。
また金には欲の無い奴でね。生活に必要な金以外は 全て貧しい人々に分けていた。
彼は政治家や我々役人は泥棒と同じだと言っていたよ。我々は多くの民に過剰な税を押し付け 弱者を苦しめることで富を得ているのだ。その内の僅かな金でも多くの弱者の命が救えるのだ。
しかし我々は他人の命より高級車や別荘を買う方を優先してしまう。僕もゼンプクジに会っていなかったらそうしていただろう。
民より裕福な生活をしていたのでは 所詮 民のための政治などできる筈も無い。はっきり言って 地球文明は もう そう長くはないよ。近い将来 地球は生命が住めない 死の惑星になる。みんな汚れた富にしがみ付いて 地球を食い尽くそうとしている。
私たちが いくら研究して解決法を出しても それを実行しないのだから全く意味が無いのだよ。」
カネモチ 地球人 ?型
多くの人々を苦しめ利用し富を得て 自分一人の力で富を得たと 錯覚している。
他人の命より自己の歪んだ正論を重んじる。
餓死している 人々から見れば我々も立派な カネモチといえる。
人類の愚行
オビの話によると 21世紀の人口爆発は大きな悲劇を生み 地球の資源を一瞬にして食い尽くし 資源の奪い合いが激化し 弱者は次々と死に絶えていった。
昔は 直接武力で他人の物や命を奪ったが 今は学力という見えない武力で民を金や法で縛り上げ 富を得る時代。みんな勝ち組に生き残るために必至に勉強し 死のいす取りゲームに精を出していたが環境的にも経済的にも限界に達し 勝ち組も激減し社会崩壊に向かっていた。
資源は底を尽き 弱者から次々に餓死し人口も激減したが それ以上の早さで他の動植物が急速に絶滅している。
強者は資源を独り占めし 弱者は密猟し ほとんどの動植物は殺し尽くしてしまった。森林伐採も地球全土に及び 砂漠化が急速に進んだ。
特に 生命の宝庫である熱帯雨林は壊滅し 生態系が崩れ 気候や海流の異変により旱魃や水害が襲った。また植物の激減によって酸素と二酸化炭素のバランスが崩れ、温暖化で動植物の大量死が各地で起き 海面も上昇し、かつての大都市や楽園の島々は水没した。
そして20世紀から地下や海に捨てられている放射性廃棄物や産業廃棄物は容器が劣化し、ついに漏れ出し 地球中に原爆が落されたの如く被爆者が広がった。
その他 酸性雨、汚染問題、ゴミ問題等 挙げればキリがないが 中でもオゾン層を失い 有害な放射線が地上を直撃するようになり その強力な消毒効果で まず微生物が死滅し それを食べていた小動物も死滅し その生態系の狂いは 全ての地球生命体の絶滅を意味していた。
そればかりか有害な放射線は水であるH2Oを分解し 分解されたH2は あまりに軽いため蒸発し宇宙空間に逃げてしまう。つまり生命の源、水が地球から消滅しているのだ。将来的には金星のように海の無い死の惑星になることも明らかだった。
隣りの惑星、金星は ほぼ地球と同じ質量で誕生時には海があった。しかし太陽から近かったために水の分解が絶え間なく進み 海が消滅してしまったのだが オゾン層を失った地球でも金星と同じ現象が起こり 同じ運命に向かっていた。
もちろん水の消滅は 地球が生命の住めない惑星になることを意味している。
カンダ「地球を救う方法は無いのですか?」
オビ「簡単なことさ。奪い合う社会から 分け合う社会に移行すればいいんだ。それができないのが人間の愚かさなんだ。
僕もゼンプクジもケンタウルス計画には奇跡を期待しているんだ。でも仮に 第二の地球が発見されたとしても 愚かな人類はそこも死の惑星にしてしまうだろう。
僕らが期待しているのは 第二の地球より人類の心を変えるもっと重要な何かだ。」
翌日、私はオビと二人で旅に出た。この旅は父がオビに頼んだのだという。
オビの住む旧アメリカ地区から鉄道で北上し アラスカからベーリング海底トンネルを潜り ユーラシア大陸の貧しい国々を回った。
そこには普段見ることのない現実があった。道端で餓死する子供たち。戦争やテロによって破壊された村々。先進国から持ち込まれる産業廃棄物の山。密漁で殺された動物たち。迫害を受けた死体。汚染された山や海。このような人類の愚行は我々は見ようともせず 歪んだ秩序と平和に踊らされている。
しかし実際に目にすると怒りを覚える。政府に?・・・・いやっ 自分自身に。
ところで父 は何故 私にこのような旅をさせたのだろうか?
ケンタウルス計画 スタート
旅から帰って しばらくしてケンタウルス計画がスタートし 私は地連の施設に入り 講習や訓練を受ける多忙の日々が続いた。
そして我々12名の若者を乗せた宇宙船 ケンタウルス号は ケンタウルス・アルファ星を目指して出航したのだった。
人類が体験したことの無い速度だ。オビの居る地球も父の居る火星もすぐに見えなく なり太陽も日に日に小さくなって行く。
最高速度の光速の50%に達すると エンジンを停止し 孤独で暇な日々が始まった。
マッケンジー 男 地球人 O型
ケンタウルス号 船長。 地連 防衛庁出身。
地球の危機を救うため カスピの植民地政策を進めようとする。
ケンタウルス号の出航
船の全長は300mでドーナツ状の遠心力を利用した広い有重力の生活空間を確保しているが 往復10年も生活することを考えると気が遠くなる。10年というのは船内の時間で 地球では時空の時差によって20年もの歳月が経過しているのだ。
長期に渡る大航海のため乗組員はみな若い。最年長のマッケンジー船長でさえ35歳という若さだ。
みんな各分野の専門家で アルファ星到着に備え勉強し 身体の退化を防ぐために一日2時間のトレーニングメニューをこなす。
そして娯楽も欠かせない。コ ンピューターグラフィックのバーチャルシステムにより 地球の大自然を楽しんだり 音楽、スポーツ、セックス あらゆる体験が可能だ。
この大航海は技術面より乗組員の精神面の克服が最大の課題となる。僅かな争い事やミスが計画の失敗、つまり死につながるのだ。
外を見ても暗黒の大宇宙があるだけで昼も夜も無い孤独すぎる時間が流れていった。
ケンタウルス・アルファ星 到着
そして時は流れ 目的地のケンタウルス・アルファ星が近づくと船内は慌ただしくなった。
九つの惑星が発見され その中で第二惑星は地球に極めてよく似た星で なんと文明の存在が確認された。我々はその第二惑星に進路をとりながら船を減速した。
アルファ星の光も増して行き太陽らしくなってきた。目的地の第二惑星に到着すると乗組員 全員が喜び合った。
4年間、暗黒の宇宙しか目にしていない我々にとって このオアシスは地球以上に青く美しく あまりに眩しすぎた。正に我々の捜し求めていた第二の地球そのもので 同じ生命の進化を歩んだらしく、我々と同じ人間が文明を築いていた。
ただ大都市は無く 近代的な建造物も無いことから19世紀の文明レベルと推定された。特に軍事基地等は見当たらず 我々を安心させた。
調査が一段落すると 首都と思われる海辺の最大の都市付近の高台に基地を築くことになった。
シャトルを往復させ 数日後には基地が完成した。基地は完全武装し 上空からは母船が援護した。
念願だった船内生活からの解放は現実となった。宇宙服等一切着けずに 大空の下を走り回った。地球の汚れた空気とは違い 美しく澄みきっている。太陽の光も地球のように肌に突き刺す感覚は無く、オゾン層の働きで無害で心地よい。まるで話に聞く昔の地球のようである。
しかし基地の外には出られず 四六時中交替で警備し ここの文明とどのように接触するかを考えていた。
そんなある日、現地人の代表者らしき二人が基地に訪問して来た。二人は民族衣装を身にまとい 武器も持たず護衛すら無い。一人は50歳代の優しい目をした男でアムタリアといい この街を管理する仕事をしているらしい。もう一人は 30歳代の学者風の女で シルダリアといい 語学博士で後に地球語を覚え 通訳士として活躍することになる。
アムタリア 男 カスピ人 AB型
カスピの首都アラルを管理する 役人。
後にカンダの良きパートナー として行動を共にする。
シルダリア 女 カスピ人 A型
語学博士。後に地球語を覚え 通訳士として活躍する。
シルダリアの通訳により この惑星は カスピといい 武器を持たない平和な文明であることが分かってきた。
マッケンジー船長は そんなカスピを植民地にしようと密かに企んでいた。
間も無く死の惑星になる地球。人類を救うには カスピの植民地化が不可欠と考えたのだ。
確かに無公害文明で武器を持たない民族、そんな格好の鴨に手を着けずに いさぎよく滅ぶ地球人ではない。
そんな我々に対してアムタリアは・・・
アムタリア「あなた方地球人は まだ我々と交流するべきではなく 地球に戻り美しい地球作りに励むべきでしょう。」
と交流には消極的だったが それでもマッケンジー船長は交流を厳しく迫った。
会談は 難攻し 話し合いは無理と悟った我々は武力を見せつけた。本来 隕石破壊に用いるレーザー砲をカスピの山や海に威嚇射撃した。その強力な破壊力にカスピ人たちは逃げ惑った。
空飛ぶ円盤と闘うケンタウルス号
そんな時 謎の空飛ぶ円盤が母船に急接近して来た。マッケンジー船長は 基地を私一人に任せると 残りの乗組員を母船に集結させ円盤に備えた。
接近してくる円盤めがけてレーザー砲を撃ちまくるが 円盤はレーダーから消滅すること無く更に接近してくる。
やがて強力な磁気嵐が母船を襲った。たちまち船内のコンピューターシステムが乱れ 航行不能に陥ろうとしていた。
残された道は帰還用燃料に点火し 超高速移動で磁気嵐から脱出し そのまま地球へ向かうしかなかった。考える暇は無く マッケンジー船長は点火を命じ、ケンタウルス号は地球への帰路に就いてしまった。
そして基地に一人取り残された私は 永遠に地球に帰る機会を失った。そんな私も不思議な力によって気を失った。
一人取り残された カンダ
気が付くと 私はある部屋のベットで横になっていた。そこには通訳士のシルダリアが居て 彼女は不安な私に対し・・・
シルダリア「怖がることはありませぬ。我らは そなたに危害を与えることはありませぬ。どうか安心下だされ。ただ仲間の地球人たちは帰ってしまったので そなたは暫く ここ カスピで生活しなくてはなりませぬ。」
不安な私をなだめるシルダリア
私は慌てて問いかけた。
カンダ「我々はカスピに対して あれだけ酷いことをしたんだ。タダで済むはずが無い。私は殺されるに違いない。カスピ政府はこんな私を保護してくれるのか?」
これに対し シルダリアは笑いながら答えた。
シルダリア「カンダ、ここは地球ではありませぬ。だから地球的常識は通用しませぬ。そなたを守るも守らぬも無い。この星には そなたに危害を与えようとする者など居るはずもありませぬ。」
カンダ「私はここで何をすれば・・・?」
シルダリア「そうね。まず学校へ行きカスピ共通語を習い ここで生活できるように最低限のことは学んでもらわねば・・。我らにとって そなたは宇宙人。もしここが地球だったら政府やマスコミが押しかけて来よう。しかし心配は無用。ここではそんな事はありませぬ。ここは地球ではなく カスピなのだから。」
アラルの黄昏
ここはカスピの首都 アラル。カスピ最大の都市とはいうものの 地球では地方都市にすぎない程の規模である。
地球のように ただ建物が集まっているのでなく周囲の自然と調和した芸術的な造りとなっている。築数百年という伝統的な建物が多く どれも 美しく個性的だが それらは互いに融合し神秘的な統一がなされている。まるで おとぎの国に居るようで 草木や花たちと相まって天国的ムードを漂わせている。
私の住まいとなった家は海辺の丘にそびえ立つ西洋風のお城で その中には ありとあらゆる施設があり それらをいつでも自由に使える。
黄昏時になると海に沈む夕日をバックに何かしらのパーティが開かれる。音楽家、ダンサー、芸人、料理人、職人たちの技術と心が融合し調和した素晴らしい演出を造り出す。
カスピでの教育
私の通う学校は お城の中にあり地球の学校と違い 老若問わず誰でも通い 一切の壁が無い。だからここでは卒業も無く 自分のペースで生涯学ぶ。
私はここでカスピ共通語を短期間で覚えた。この共通語は単純な母音と子音を組合わせるだけの誰でも分かるデジタル語が基本となっているが その組み合わせによって無限の表現を可能にしている。
会話は言葉以上に相手の心を読むことを学んだ。シルダリアも我々の心を読むことで短期間で地球語を覚えたのだと悟った。
共通語をある程度覚えると義務教育にあたる 幹教育を受けることになった。ここで私の師となった ハンガン先生は言う。
ハンガン「地球では 頭に知識を詰め込むことで競っているが ここでは魂を磨く事こそが勉強なのだ。
頭で100の事を覚えるより 魂で一つを悟る方が遥かに重要なのだ。
科学技術だけが進めば 便利にはなるが文明は崩れやすくなる。とどのつまり 誰でも気軽に核兵器を持つようになる。
つまり どんなに知識があっても その知識以上の魂を持っていなければ凶器となり文明までも滅んでしまうのだ。
地球人は頭で分かっているが 魂では分かっていないから文明の危機を招くのだ。
ここでは 試験の点数や面接の正論など 全く問題でないのだ。あくまでも魂なのだ。全てはここから変わるのだ。」
ハンガン 男 カスピ人 AB型
アラルで主に幹教育を教える 先生。
強い霊力の持ち主で カンダの教育係となる。
ここでの教育は二つあり 一つは「幹」で人類共通の学問。もう一つは 「枝」で個性を伸ばす学問だ。
そして その二つが融合して人は無限の可能性が得られるのだという。
人が他の動物より優れているのは能力ではなく個性なのだ。人間一人と動物一頭の能力の差はさほど生じないが 人間一人一人には様々な分野に個性的な能力を持っている。つまり全ての人は天才なのだ。
それらの個性、いわゆる枝は太い幹に結ばれて 初めて無限の力を発揮できる。反対に人は一人では生きられないのだ。
私が幹教育を受け始めた頃、 パワーをプラスに向けることをしつこい位学んだ。多くの人は生まれ持ったパワーを 恨み、妬み、嫉妬、怒り、不安、恐怖等のマイナス面に使い果たす傾向があるが そのパワーを僅かでもプラスに向けるだけで人生がガラリと 変わる。疲れることも病気に罹ることも無くなり 自己の能力に目覚めてくる。
幹教育
地球では他人に勝つために勉強するため 自己の利益を追求するが ここでは みんなの利益を追求し 自分の役割を学ぶ。
また先生と生徒の立場は一定ではなく 互いに教え合うので誰もが先生にも生徒にもなりうる。
科目もユニークである。特に「王学」という科目は 自分が全ての権力を握る独裁者 になったと仮定して どのような世界を築いていくかを考える。自分一人だけの真の幸福はありえず 全ての人の幸せをどのように融合させるかを学んだ。
また「自由学」では真の自由とは無法社会ではなく他人への思いやりがあって初めて成り立つということを学んだ。
六角空調の学習風景
私の苦手な科目の一つに「六角空調」がある。正六角形の空間を囲って六つの部屋に 一人ずつ閉じ込められる。窓から六角形を通して向かいの部屋の三人は見えるが隣の二人は角度的に見えない。
部屋の温度は一定ではなく変化する。各自 温度調整レバーで操作するのだが 自分だけ快適な温度を得ようとすると たちまち他の者は不快な温度になってしまう。与えられた温度をいかにみんなと うまく分け合い調和するかを学ぶ。
それが簡単そうで難しいのだ。頭では分かっていても いかに魂で分かっていないかを痛感させられる。そう、ここでは頭で分かっていても何の意味も無いのだ。
また六人 は各自 性格も体質も異なるので単に温度を平均化させても駄目だ。そして隣りの二人の表情が見えないのでチームワークが重要となる。
最初は各部屋の温度や表情等 五感に頼るが 次第に互いの心を感じる段階、すなわち魂のレベルへと移行する。
この科目は経済学の基本にもなる。金や物はもとより 幸せや苦労までも分け合う心を養うのだ。
自己の利益から宇宙の利益へと無限界への出発点となる。
逆に私の得意な科目は「オアシス管理」だ。外と完全に隔離されたドームの中の環境を管理するのだ。
目先の便利さを求めてしまうと空気や水質が変化し生態系が崩れ たちまち人が住めない環境になる。
自然との調和を考え 全ての動植物が快適に過ごせるように管理する。
私は火星で 正にそのような生活をしてきた。この科目に関しては 私はみんなに教えることの方が多く先生になっていた。
ただ これらの科目は幹教育の中でも最も初歩的なものにすぎず この星で人として生活するために不可欠なモノである。
今まで見えなかった新世界
有限界から無限界へ
カスピでの教育が進むにつれ 今まで見えなかった世界が魂を通じて見えるようになった。それはやがて簡単な未来や人の心の中まで見え、いわゆる超能力が身に着いていった。ハンガン先生は言う。
ハンガン「地球人は魂をないがしろにして科学技術ばかりを発展させてきた。しかし科学には限界がある。それは時空の座標の物理的法則内での発展だけに限られる。」
私は問いかけた。
カンダ「!!それなら・・カスピ人は物理的法則の外に行けるのですか?たとえば・・・そう、瞬間移動や光速を超える船を造るとか・・・。」
ハンガン「確かにそれらは法則上不可能だ。しかし我々の魂は物ではなく 高次元の霊体なのだ。霊体は物理的法則に縛られることは無い。つまり我々はもともと法則の外を自由に行けるのだ。
我々は既に地球の存在を知っていた。そして地球を知るのに宇宙船ではるばる長旅をする必要はないのだ。霊体を通じてその目的はいとも簡単に果たされてしまうのだ。」
私は驚きのあまり言葉を失った。
ハンガン「カンダ君、私には君の未来が見える。君はこの先 大変な苦難の道を行くことになろう。ここで学んだことが必ず役立つはずだ。」
気になる言葉だったが私もある程度 自分の未来を感じていたが 霊力を感じるようになり 怖いモノは無くなっていた。
魂が不滅であることを確信すると 死も小さな過程の一つにすぎず 死の恐怖からも開放された。
生き続けること。それは反対に 殺し続けることを意味する。他を殺し食することで生が保たれる。つまり一つの生は多くの死によって支えられている。生かされている我々はそれだけ大きな役割と責任を背負っているのだ。今まで見えなかった霊的法則が少しずつ見えてきた。
ハンガン「霊力を身に付けた君には もはや言葉は不要だろう。言葉は一次元上の情報力しか無く嘘や偽りも多いが 霊力、つまり テレパシーは無限の情報力を秘めている。しかも全宇宙共通語で相手と瞬時に何もかも分かり合えてしまうのだ。」
確かに地球での会話は各自の立場に縛られ 建て前、お世辞など機械的で心の疎通を忘れてしまっている。
ハンガン「君は もう外の世界を知るべきだ。この城から出て更なる広い世界を学ぶがよい。アムタリアと共に旅立つのだ。」
アラルを離れて
翌朝 アムタリアが迎えに来てくれ 私たち二人は城の人々に見送られ旅立った。旅といっても何も持たずに手ぶらである。
城を出ると花や草木たちに囲まれたランニングロードがあり人々がジョギングを楽しんでいる。すれ違う人は まるで昔からの知人のように ごく自然な感じであいさつをしてくる。 道の所々には憩いの場があり人々が くつろいでいる。
それにしても都市の中というのに田畑が広がっている。
海辺の道を行く私とアムタリア
アムタリア「地球では遠方の農家から食物をトラック輸送するのだろが ここでは輸送をできるだけ控えるため 各地域が自給自足できるように土地が管理されている。だからここでは地球のように大量の車を必要としない。それに光合成エネルギーで走る無公害車だ。
確かに地球の車より遅いが経済競争の無い ここカスピでは速さは必要としないのだ。それに ほとんど個人所有でないので台数も極めて少ない。」
我々はヒッチハイクで しばらく海辺をドライブした。
やがてアラルを離れ サーファーの村 ナセルに着いたところで昼になり 海辺のレストランで昼食をとることにした。
ここの若き女シェフ、ナイル自ら私たちを出迎えてくれた。
ナイル「ようこそ!地球から はるばる来られたカンダさんでしょ?海の見える席へどうぞ。」
不思議だ。彼女は私の心が見えるらしい。まるで私の好みを前もって調べ上げたかのように私の食べたいメニュー、食べたい量が出てくる。
ナイル「カンダさん、いかがでしょう?地球の話も聞きたいし・・・同席してもよろしいですか?」
ナイル 女 カスピ人 B型
サーファーの村ナセルの レストランで働く若き女シェフ。
海をこよなく愛している。
ナセルのレストランでナイルとのひと時
我々はサファーたちで賑わう広大な海辺を眺めながら食事を楽しんだ。
メニューはステーキで私は久しぶりに肉を口にした。
カンダ「これは何の肉ですか。」
ナイル「(笑)これは肉ではありません。雑穀を固めた いわば人工肉です。雑穀は地球では家畜の餌と聞いていますが ここでは人間も大いに食します。動物を育て殺して食べるという地球的方法は ここでははやりません。効率があまりに悪いからです。
食となる動物を大きくするまで餌を与え 管理するのですから環境的負担も大きくなります。
それに対し雑穀は 早く作れ農薬もいらず 手間もかからず タンパク質は肉以上です。
それに必要以上に動物を殺すのもはやりません。地球人は旨いものを食べるには手段を選びません。動植物を無差別に殺し 次世代の子供たちのことも考えずに農薬、化学肥料を大量に使い土を壊す。
我々カスピ人も かつてそんな時代がありましたが 精神文化の向上と共に 食文化も変化しました。我々は旨いものを食べるために生まれてきたのではありません。命を奪った者のためにも よりよい世界作りに貢献しなくては・・・あっ!すみません。説教になってしまて・・・」
カンダ「いえ!とんでもない。ここの食は舌で味わうのでなく、心で味わう食文化なんですね。ところでナイルさんもサーファーなんですか?」
ナイル「ええ、私も こう見えても 毎朝波に乗ります。」
アムタリア「この星の世界では生活に追われることが無いから 各自の趣味が生活になることが多い。ここはサーファーの村だが、ダンスの村、音楽の村、スポーツの村、物作りの村等 様々だ。」
ナイル「そう、私も かつては料理人の村で修行しました。」
アムタリア「私も若い頃は色々な村々を旅したものだ。今はアラルの城に落ち着いたがね。ここでの若者は旅を繰り返し、やがて安住の地を決めてゆくのが普通なのだ。」
食事を終えるとナイルに見送られナセルの村を後にし、我々は海辺を歩きドーメニル市場に向かった。その道のりで私は ふとある疑問が浮かび上がりアムタリアに尋ねた。
カンダ「アムタリア、そういえば あのレストランにはレジが無かった。いいんですか?お金を払わなくても・・・」
アムタリア「金だって?この星には そんな面倒なモノは存在しない。ところでカンダ、地球には 何故 金という不便なモノがあるのかね?」
カンダ「!!不便ですって??逆ですよ。便利だからあるんじゃないですか。」
カスピの経済
アムタリア「金は権力者や金持ちにとっては便利かも知れないが 多くの貧困層を作り出し しなくていい仕事と金に一生縛られることになる。地球文明は金や仕事を奪い合う「殺人経済」だ。殺人経済下では一部の者しか富を得られない。
金というモノは みんなで富を得ようとすれば簡単にみんなが金持ちになれるが 地球人のように自分だけが富を得ようとすれば たちまち意味の無い経済競争、いわゆる殺人経済が起き 不要な仕事に追われ 人々は首を絞めあい 多くの人は金持ち に一生利用されることになる。
そして いじめが生じ、人と人とが憎しみ合う社会を造り出してしまう。
それでも殺人経済は 20世紀までの経済成長期には仕事もあり 人々は生活ができたが 経済成長が伸びきった21世紀では 当然ながら人々は金と仕事を奪い合い、先ずは弱者が滅び、そしてそれを食いものにしていた金持ちも滅ぶことになる。殺人経済の末路は分かりきったことなのだ。
君も習ったであろう?六人空調を。そう、奪い合う社会から分け合う社会に移行した時、正にその時こそ 金は不要になり 人々は金から解放されるのだ。」
カンダ「確かに・・・でも 奪い合いから分け合いに移行するだけで 全ての人が簡単に金持ちになれますか?」
アムタリア「なれるとも。地球人が いかに無意味な仕事に追われていることか。カンダ、地球に存在し ここには存在しない職業は驚く程多い。金が無いのだから当然ながら銀行、保険会社、証券会社、造幣局等 全て無い。
株や保険で儲けた者が必要以上に金を持ち、損をした者は生活ができなくなるなんて愚かな事はここではありえない。
地球で人気のギャンブルもゲームとしては存在するがギャンブルそのものは存在しない。
ギャンブルは多くの不幸な人を作り出し 自分だけが富を得ようとするもので 我々にとってギャンブルに勝つ事は とても成功とは言い難い。
企業秘密や特許も無く 合理的で無駄な研究をしないで済む。物を売りつける必要もないので広告看板で街の景観を損ねる事も無く セールスマンも不要だ。事務仕事はコンピューターがしてくれるし、製造業も地球のように使い捨てではなく 半永久的に使える芸術品を作り 人から人へと繰り返し使われるので ほとんど物を作る必要も無い。
地球では家や道路を造ったり壊したり繰り返さないと建築業は成り立たないが ここでは築数百年という建造物が多く、家を造る必要性も生じない。
そして全ての品物は共有なので 買い物は欲しい物を家に持ち帰り、不要になれば返せばいいのだ。だから製品を多量生産する必要も無く、ゴミも出ないのだ。つまり ここでは不景気は生活が豊かなことを意味する。
また犯罪を犯す必要も無いので 警察、裁判所、刑務所、軍隊もここでは存在しない。」
カンダ「えっ!!警察も無いんですか?そんな馬鹿な!いくらなんでも この星に犯罪を犯す者が一人も居ないなんてことは無いでしょう。」
アムタリア「何故 法や金や警察、刑務所が必要なのかね?それは自分の事しか考えない下等人種が社会を作ろうとするからだ。この星では みんなが家族なのだ。人が孤立することは考えられないし心が病んだ人が居ても隣人がほっておかない。
我々から言わせれば困った人を助けない事の方が よっぽど罪なのだ。地球では犯罪が起こると 犯人一人に全ての罪を押し付け 逮捕し刑務所に送り、「事件解決」と言うが それでは犯罪は繰り替えされるし、我々にとって それは何の解決にもなっていないのだ。
ここでは犯罪を出してしまった人類の責任であり 一人一人の罪なのだ。」
カンダ「素晴らしい社会だ。でも そんなに職業が無かったら暇ではないですか?」
アムタリア「ははは(笑)それが地球人以上に忙しいかも・・・。確かに ここでは地球のように 金という人質を取られ したくもない仕事に駆り出されることは無い。だから ここでは人が嫌がる仕事は一切無いし生活の心配も無い。
しかしカスピ人は地球人以上に欲深いのだ。地球人は金や地位に対して欲深いがカスピ人の欲望はもっと大きいのだ。
物にしても地球の量産品ではカスピ人は満足しない。
殺人経済は個性、芸術を殺し 量産品に埋もれてしまうが ここでは物ではなく、作品を作るのだ。量産品と比べて比較にならぬ程手間が掛かる。また仕事はここでは生活のほんの一部に過ぎないのだ。」
このカスピの経済が地球の殺人経済と決定的に違う点は 争いが生じないことだ。地球では何をするにしても損する者、得する者が生じ 必ず争いになり無駄な労力と時間だけが費やされ、時には殺し合いにまで発展する。
しかしカスピでは 全体の利益を考えるので 何をするにしても得なのだから争いなど起こる筈も無い。
我々地球人は一生のほとんどを 金儲けの時間に費やされ、金に縛られるが カスピから見れば それは異常な世界なのだ。
他の動物は あくまでも自分一頭が生活する必要分の狩しかしないが 我々地球人の富に対する欲望はキリが無く どんなに多くの弱者が死のうが 地球を壊そうが 自己の富と自分が生きている時代の地球環境だけを考える。
環境、資源は今や 一人分の狩は愚か孫のキャッシュカードまで使い果たした状況だ。我々は子供たちを可愛がっているが それは自己の快楽のために可愛がっているだけで 愛ではない。
我々地球人も自己の利益から地球の利益、そして宇宙の利益に移行する時期に来ている。
ドーメニル市場にて
のどかな昼下がり 私たちはドーメニル市場にたどり着いた。市場といっても何故か活気を感じない。無理もない。ここでは経済競争が無いので派手な看板も呼び込みも無い。
どの店も ほとんど中古品ばかりだが よく手入れされ 多くの人から愛され独特の重みを感じる。そして製品を見ていると職人の魂の果てにある芸術の彼方に吸い込まれてくようだ。製品というより作品というべきで まるで美術館に居るようだ。
私が作品に見惚れていると 店の主が現れた。主の名はセーヌ。40代の女性で服職人 。怪しげな占い師の雰囲気を漂わせ独特の暗さを持ち どの服を見ても すぐ彼女の作品だと分かる。
店というより工房といった方がいいだろう。セーヌの工房には セーヌの弟子たちが日々学んでいる。
セーヌ「気に入った品はおありかな?旅の人。」
カンダ「はい、見ているだけで感性が豊かになるようです。でも私には似合わないようです。」
セーヌ「さよう。そなたには似合いそうもない。ファッションとは価格ではなく その人に合ったモノ、その人の魅力を引き出させるモノを着るのが一番自然体で その人を美しくするであろう。」
セーヌ 女 カスピ人 A型
ドーニメル市場の服職人。
個性的な作品を手がけ多くの 弟子を持つ。
カスピ人の美しさの根源は調和にある。人々が単に美を競い合い 自己の美だけを追求したのでは限界がある。
環境や周囲の人々と調和されて はじめて それぞれが生きて 無限の美が得られるのだ。
セーヌ「ここでは金で品を買うのでなく 心で買うのです。だから金に依存している人にとっては不便かも知れませぬが 反対に心が豊かなら どんなに便利か分かりませぬ。
地球では 要らなくなった品を大量に捨てると聞く。なんと愚かな事。次に必要としている人に譲れば良いものを・・。
作品を作るという行為は 実に責任ある行為なのです。心を込めて作り、手入れし、寿命が訪れたら土に還さねば。
我ら職人は若い頃は修理や手入れがほとんどで 作品に取り掛かるのは かなりの歳になってからです。」
ここでは本当に作品の重みを感じる。また地球では自分のタンスの中の服しか着れないが ここでは世界中全ての服が自分の服で不要な服を持つ必要も無い。
それを可能にしたのが自己の利益からみんなの利益への移行であり調和である。
カスピ人は自分が何処に住み、どれだけ贅沢をすれば みんなが幸せになれるか魂で悟っている。また いざとなれば死ぬ順番までも心得ている。
宿探し
アムタリアはセーヌの工房に勝手に上がり込み パソコンを操作し始めた。
キーボードを触ってもいないのに パソコンは何故か作動している。
カンダ「アムタリア、キーボードを打っていないのに何故?」
アムタリア「霊力、つまり超能力がパソコンに反応している。霊力を使えればキーボードやリモコンは不要になる。」
カンダ「・・・。私には理解できない領域ですね。ところでパソコンで何をしているのですか?」
アムタリア「うん、今晩の宿を探しているんだ。」
カンダ「近くに良いホテルはありますか?」
アムタリア「ホテルだって!!ははは(笑)ホテルか。それもカスピには無い。
服と同じで 世界中の家は自分の家なのだ。何処でも泊まれるし 一人でいたいのなら空家もあるが どうせなら楽しい夜にしたいし・・・」
パソコンのディスプレイからは次々と個人情報が出てくる。この星の住人全ての経歴 、健康状態はもちろんのこと 人に言えない恥ずかしい悩みまでも・・・
カンダ「こんな個人情報を出したらプライバシーの侵害になるのでは?」
アムタリア「何度も言うが ここでは みんなが家族なのだ。プライバシーを悪用する者など居る筈もないし 悪用しようも無い。それに悩みは隠さず情報を出せば同じ悩みを持つ友や それを解決できる友にも出会える。
パソコンを通して世界中の施設を使え 世界中の人々と交流できるのだ。」
またパソコンで世界中のあらゆるニュースを見ることもできる。 地球ではニュースといえば悲惨な事件ばかりだが ここでは楽しくて参考になり前向きなニュースばかりだ。
アムタリアはある人に興味を持ったらしい。
アムタリア「カンダ、今晩はこの人の家で泊まるか?ここからも近いし・・・」
カンダ「どんな人ですか?」
アムタリア「主の名は チャオプラヤ、50歳の男性。仕事は山を案内するシェルパをしているが村人に武道を教える武道家でもある。」
トンレサップの山村
メールで「宿泊歓迎」の返事をもらうと私たちは ドーメニル市場を後にし チャオプラヤが住むトンレサップ村に向かった。
村までは車も通れない険しい山道が続いたが 夕刻には なんとか村にたどり着いた
。
チャオプラヤの道場からは稽古に励む人々の声で活気に満ちていた。
道場に入ると道衣姿のチャオプラヤが早速出迎えてくれた。
チャオプラヤ「やあ!アムタリアさんにカンダさん、ようこそ。どうです?一緒に稽古しませんか?」
道衣に着替えると 先ず礼儀作法から学んだ。ここも老若男女問わず様々な人々が学んでいる。
この武道は強さだけを求めるのでなく健康術が土台になっている。精神と肉体を鍛え霊力を高めるのだ。
アムタリアと私は呼吸法とストレッチ、そして基本的な型を学んだ。心地よい疲れを感じストレスがひいた。
チャオプラヤ 男 カスピ人 O型
トンレサップの山村で村人に 武道を教える武道家。
山をこよなく愛しシェルパの 仕事もこなす。
村人から最も尊敬されている。
チャオプラヤの道場での稽古
稽古を終えると温泉に案内され 道場の人たちと露天風呂を楽しんだ。
黄昏をバックに際立って高くそびえ立つ山が見えるがチャオプラヤが案内してくれた。
チャオプラヤ「あの山はラナオ山。カスピ最高峰の山です。私はシェルパの仕事もしていて山が大好きです。地球にも美しい山があると聞いていますが・・・」
カンダ「ええ、私は残念ながら登ったことはありませんが ヒマラヤを始め多くの名山があります。」
チャオプラヤ「行って見たいものです。ところでカンダさん、地球で一番大きな無人島はご存知かな?」
カンダ「・・?分かりません。地球では いたるところに人が住んでいますから・・大きな無人島は無い筈です。」
チャオプラヤ「そうだろうね。カスピには 無人島はもとより無人大陸まであります。大自然と人が共存できるようバランスを考えなければ地球の名山も台無しになります。」
黄昏の温泉からラナオ山を一望
チャオプラヤと山の話をしている間に空は すっかり星たちに支配されていた。
アムタリア「ここは地球から4.3光年しか離れていないのだから 地球から見える星座とそれほど変わらないだろう。・・・あっ!!カンダ、あの星だよ。君たち地球人の太陽が見えるぞ。」
ここから見える太陽は他の恒星と同じで 僅かな点にしか見えない。ただこうして隣りの太陽系の惑星の温泉から夜空に光る太陽を眺めているなんて不思議である。急に故郷の事が心に蘇ってきた。
大宇宙の一生
アムタリア「カンダ、この大宇宙をみて何を感じるかね?」
カンダ「宇宙はあまりにも広すぎて・・・自分が孤独な存在に感じます。」
アムタリア「そうかな?霊力をもっと感じなさい。我々は孤独ではない。この大宇宙から果てしない友の声が聞こえる。
ところでカンダ、宇宙がどのように誕生したか分かるかね?」
カンダ「ええ、150億年前、ビックバーンと呼ばれる大爆発によって誕生したと習いました。」
アムタリア「さよう、その通り。今も宇宙は信じられない速度で膨張を続けている。」
カンダ「この宇宙が無限なのか、有限なのか霊力を用いて宇宙の果てを見れますか?」
アムタリア「この宇宙は有限だ。しかし宇宙の果ては存在しない。簡単に言うと この宇宙は4次元球の表面上の3次元宇宙なのだ。
つまり宇宙の果てに行こうと一方向に何処までも まっすぐ進めば4次元球を一周して元の位置に戻ってしまう。つまり この宇宙はシャボン玉の表面なのだ。シャボン玉が球状になる原理と同じで 宇宙も4次元重力によって4次元球状になっている。
しかしシャボン玉の表面とは3次元球の表面上の2次元界を指すが 我々の住むこの宇宙は それより一つ上の次元界なのだ。
つまり今は膨張している宇宙も やがて4次元球の裏側に進むと膨張から縮小に転じることになる。当然ながら星同士が接近し衝突するようになり 宇宙末期には ほとんどの物質はブラックホールに呑み込まれ、更にブラックホール同士が衝突し 最終的には全ての物質は一つの巨大ブラックホールになり この宇宙は終わるのだ。その時 シャボン玉の一点に全ての重力がかかるため 球状のバランスが保てず シャボン玉は弾けるが メビウスリングの原理で巨大ブラックホールは巨大ホワイトホールに進化して新たなビックバーンとなり 次の宇宙が誕生するのだ。
宇宙はそれを繰り返し進化してきた。我々も同じだ。輪廻転生を繰り返し果てしない時空の旅をしながら進化しているのだ。」
チャオプラヤ「頭が混乱しませんか?カンダさん、宇宙の法則は今のあなたには さほど重要ではありません。ただ私たちの命が永遠であり 孤独ではないことさえ分かれば それでいいのです。」
大宇宙の一生
頭がメモリーオーバーに陥っている私をチャオプラヤは助けてくれた。
我々の宇宙は有限界といっても あの世には霊界を始め無限の次元界が存在し進化を目指しているらしい。
この宇宙は3次元宇宙であり、4次元球であり、5次元の輪であり、6次元の点であると言うが私には全く理解できない。
山村での生活
風呂から上がると村人たちとランプを囲って ささやかな食事を楽しんだ。そして しばらく この村で厄介になることにした。
ここトンレサップの山村は 都のアラルとは異なり 物の無い原始的な生活を営んでいるが村人たちにとっては そんな不便な生活こそが贅沢なのだ。朝は近くの山を散歩してから道場の庭先で村人たちと朝食を楽しむ。
仕事をする者は求人会館に行き 今日の仕事を探す。職は大きく分けて二つあり 一つは専門職。その道のプロで毎日その道を探求する。そしてもう一つは自由職。その日に必要とされる職に就き 毎日違った経験をする。
地球では学校を卒業すると何も分からないまま一生の職を決めてしまうが ここでは先ず自由職として様々な人と出会い、様々な職を経験した後に やがて自分の道を決め専門職になるのが一般的である。
私も毎日が未知の体験で 毎日が新鮮で希望に満ちていた。毎日違う仕事をすることで 全ての村人に出会え、それぞれの立場も理解でき、みんなが家族になれる。
地球と違い 一日中仕事をする必要も無く 昼過ぎには道場で稽古することが多い。
この武道は その動きに高い芸術性を持つが 闘いにおいても直接打撃だけでなく 霊力も用いる。
確かにカスピでは 他人の命を奪ってしまう経済競争は無いが 互いを磨き合うための闘いは 地球以上に激しいモノがある。チャオプラヤは この先 私が この武道を必要とされる日が来ることを悟っているかのように熱心に教えてくれた。
修行の日々
村の活動は日の出から日没までなので 夜間の電力は さほど必要としない。また温泉を利用したオンドル暖房は夏にはオンドル管に風を通し天然の冷房となる。経済競争の無いここでは そんな自然のエネルギーで充分足りてしまう。
村には古い木造の建築物が多く どれも国宝級の芸術作品だ。まるで神が住んでいそうな宮殿のようである。
新たに家を造る必要性が生じないので 宮大工たちの仕事は もっぱら手入れや修理が中心となるが やがては生涯を懸けた作品に取り組むことになる。
ここの医療は「気」を用いる東洋的なモノが主だが 治療よりも予防を重視している。だから ここでは病気に罹る前に気軽に病院に行く。もっとも地球人のように自分に嘘を吐き不自然な生活をすることの無いカスピ人は 常に自然体であり ほとんど病気 に罹ることも無い。また患者が死ぬと みんなで死者の旅立ちを祝う。カスピの人たちを見ていると 地球人が いかに心が病んでいるかが分かる。
こんな小さな村でも ささやかな美術館や劇場があり ここも出品する者、演出者、 観客の立場な決まってなく誰でも主人公になれる。
ここでも全ての村人は学校に通うが 決められた教科を学ぶのでなく自分たちで教科を創っていくのだ。
こんな のどかな山村は祭りの声が何処からともなく聞こえてくるような独特の雰囲気で一つの楽園の形とも思える。この金や権力や法に縛られない 真の自由は 自己の利益を捨て みんなの利益を考える心を魂で理解するだけで簡単に実現できるのだが・・・
旅の終わりに
そして時は流れ チャオプラヤたちと楽しかった日々と別れを告げ 再びアムタリアと旅立ち、私は また新たな未知との出会いの日々で 隣人たちが私の世界を広げてくれる。
ここでは旅をするのに荷物が不要なのはもちろんだが パスポートや身分証明書も不要だ。国境という線を引いて殺し合いをする風習も無い。土地を金や権力によって 個人のものにしてしまう発想が無い。
無数の国や民族が存在するが 全ての人々は太い幹によって強く結ばれている。
私は こうしてアムタリアと有意義な旅を続けていった。そして いつしか地球に帰るよりも この星で永住したい気持ちが私の心を支配していった。
しかし この旅も終わりに近づいていることを私は感じていた。のどかな尾根道を歩きながら 私は恐る恐る アムタリアに尋ねた。
カンダ「アムタリア、これから何処へ行くのですか?」
アムタリア「カンダ、君も旅の終わりを感じているようだね。そろそろ話さなければとは思っていたのだが・・・」
アムタリアは言いにくそうだった。
アムタリア「はっきり言おう!君は地球に帰される。悪く思わんでくれ!」
あの地獄の地球に帰されるとは・・・。故郷の星に帰れるという喜びは無かったが自分自身うすうすは感じていた。
私が故郷の地球を捨て 自分だけがこの楽園で暮らしても真の幸福は得られないことを。
私は地球人なのだ。神がお与えになった道場で闘うことが使命なのだ。ここで学んだことから考えれば すぐ分かる理屈である。私と出会ったカスピ人たちは みんな優しかったが 真の愛情はくれなかった。それは私の旅立ちを気遣ってのことだと ようやく分かった。
アムタリア「帰される訳は分かるであろう?」
アムタリアは尋ね、私はうなずいた。
アムタリア「カンダ、君から見れば ここカスピは高度の精神文明を持つ楽園かも知れない。しかしレベルは まだまだ低すぎるのだ。
みんなの利益を考え、他人を思いやることは 自分の利益に直結することで、そんなことは素晴らしいことでも何でもないのだ。
君には まだ見えないだろうが カスピ人は楽園を優雅に楽しんでいるのではないのだ。更なる上を目指して闘っているのだよ。
私たちが思い描く天国も そこに到達してしまえば そこは もう既に天国ではなくなり 道場と化し、そして高次元の新たな天国が次第に見えてくる。我々は こうして果てしない旅を時空を超えて続けているのだ。
この銀河だけでも高度の知的文明は 数知れず存在し みな魂の向上を目指し神に近づいている。
そして地球文明は あまりにも遅れてしまった。もう全ての面で限界に来ており最後の選択をする時期となった。
君はここで学んだことを生かして 地球を救うのだ。」
カンダ「もう二度と ここに来ることも無いのですね。」
アムタリア「そんな事は無い。もし地球人が正しい選択をして 我々カスピの同盟国、すなわち 宇宙的国家になれば無限の交流ができるのだ。」
カンダ「でも、どうやって地球に帰るのですか。」
アムタリア「空飛ぶ円盤で帰ることになる。」
カンダ「えっ!では、あのケンタウルス号と戦った円盤はカスピのモノだったのですね。」
アムタリア「いや、見ての通り 我々には そんな高度な科学技術は無い。彼らは我々より遥かに進んだ文明を持つ別の宇宙人。銀河連邦の一員だ。
銀河系のほとんどの文明は銀河連邦に加入しているが 地球は まだその段階に無く その存在すら知らずにいる。
銀河連邦に加入するには 最低限の精神文化を保持していること、無公害で星の管理ができていること、国家が平和統一されていること等の条件があるが地球文明は いずれの条件も達成されていない。
それらは他文明から教わるのでなく 自力で解決しなくてはなれない地球人自身の問題なのだ。
もし解決できたら その時こそ円盤たちは地球に降りて来る筈だ。円盤たちは いつも地球を見守っている。何度か地球文明に手を貸そうと接触を試みた円盤も居たが 地球の指導者たちは円盤と密約し大儲けしようとするだけで何の解決も得られなかった。」
カンダ「そうだったのですか。・・・でも地球に帰っても こんな私に一体何ができるでしょう?」
アムタリア「君はここで充分学んだ。先ず自分を信じるのだ。そして地球人たちも信じてあげねば。それに君は一人ではない。」
空飛ぶ円盤のお迎え
我々は小高い丘の上に立った。
アムタリア「カンダ、ここでお別れだ。これから故郷の地球で新たな闘いが君を待っていよう。今度再会する時は 同盟国同士として会えることを信じている。」
やがて一隻の円盤が舞い降り 頭上に現れた。
カンダ「色々とありがとう。アムタリア、カスピの心を無駄にはさせません。そして必ず再会できるようにします。」
心の準備を終えると私の身体は浮き上がり 頭上の円盤に吸い込まれていった。眼下には手を振るアムタリアの姿が見えたが すぐに気を失った。
21世紀の選択

メコン 女 カスピ人 A型
カスピの女王。カスピの民に 全てを捧げカスピの発展に尽くす。
地球文明との真の交流を心より願っている。
ドナウ 男
スバル人 AB型
在カスピ・スバル大使。
銀河連邦の中でも高い科学技術を持つスバル人の高官。
地球に対し厳しい態度をとるが 本心は地球文明の発展を願っている。
孤独過ぎるベッテルン城へ向かう私
ベーネルンそっくりの土星
気が付くと私は ケンタウルス系第7惑星ベーネルンの衛星ベッテルンの地上にそびえ立つベッテルン城に向かって歩いていた。
大気も無いこの地を宇宙服も着けずにだ。見えないシールドに守られているらしい。
頭上に浮かぶベーネルンは ケンタウルス系最大の惑星で巨大リングを持っていて土星にとてもよく似ている。そのあまりの大きさに驚く。なにしろ天空のほとんどをおおってしまう程で その強大な重力に吸い込まれ 地獄の底の魔界にまで落ちて行きそうだ。
ベッテルンはクレーターに覆われた小さな天体だが その表面に こんな立派なお城がそびえ立っているなんて とても不自然で不気味である。
城に入ると40代程の男女が 私を待っていた。女の名は メコン、カスピの女王。男の名は ドナウ、銀河連邦の役人。
ベッテルン城内のメコンとドナウ
ドナウ「ようこそ、カンダ君、私は在カスピ・スバル人のドナウだ。」
メコン「カンダ殿、こちらへ、カスピ女王メコンじゃ。」
スバル人のドナウは人間そのものだが 私との意思の疎通をスムーズにさせるために あえて私の次元まで落して接してくれているのだと悟った。
カンダ「教えてください。地球は一体どうなってしまうのです?」
ドナウ「君も霊力をある程度は使えるのだろ。そう、君の察しの通り 地球人は滅亡に向かって突き進んでいる。自ら好んで滅ぶのだから ほっておけば良いものを・・・
このメコン女王は 地球を救えとおっしゃる。まったく困ったものだ。
残念ながら地球人は我々と交流できる段階にない。考えてもみなさい。カスピに地球人を放し飼いにしたらどうなるか。街の中に野獣を放す以上に危険だ。
我々は地球文明と交流して得るモノもなければ交流などしたくもない。しかし超高速ロケットの発明によって他文明にまで危害を与えるに及び 我々も無視できなくなったのだ。
メコン「地球を救えるのは 地球人自身の他に無いのじゃ。事実 多くの文明が破滅の道を選択し滅び去った。
そして地球文明も破滅の道を歩み始めた。しかし今なら まだ分岐点に戻れるのじゃ。この分岐点は文明が進むと必ず訪れるモノなのじゃ。正に
21世紀の選択なのじゃ。」
カンダ「カスピの方々が何故 私に色々なことを学ばせてくれたのか痛い程よく分かります。全ては地球を救うため。私はカスピの方々の願いを無駄にする訳にはいきません。今度は私が自分の務めを果たす番だ。」
メコン「よくぞ言うてくれた、カンダ殿。」
ドナウ「カンダ君、君を地球に送る前に 是非ここに呼びたかった。ここからベーネルンを眺めていると改めて地球の尊さが実感できるだろう。地球は かつては銀河を代表する程の美しすぎるオアシスだったのだ。」
ここは何の変化も無い沈黙の時が何十億年も延々と流れている。
しかし私は もう孤独を感じない。なぜなら何処に居ても宇宙霊界の一員であり 私には無限の家族が付いているからだ。
それにしてもカスピ人は 実に欲深い。地球人は自分や自分の家族だけが富を得れば それだけで満足していまうが カスピ人は みんなが幸せにならなくては決して満足せず、更に その欲望は全宇宙、霊界にまでも及び まさしく無限である。
私はここベッテルン城で しばらく催眠教育を受けることになった。
催眠によって時空を超え 私はカスピの
21世紀の選択を見た。
かつてカスピも金と権力と法に縛られた暗黒時代があった。そんな中 多くの者は権力者から開放されるために財産や国籍さえも捨て非国民になり 自給自足の生活を営んだ。そして非国民たちが 集まり協力するようになり生活は豊かになった。
一方権力者たちは税収を断たれ国は崩壊した。
人々は今までの愚行を反省し 全く新しい価値観が芽生えたのだった。
そして 自己の利益からみんなの利益に移行し バラバラだった人々の心は しだいに幹によって結ばれ その幹は日々太く育っていった。
それは まさしく精神文化の幕開けだった。
地球へ
長い眠りから覚め 目を開けると暗闇の世界だった。手探りで壁に触ると慣れ親しんだ感触だった。ここはケンタウルス号の睡眠カプセルの中。どうやら私は時空を超えたらしい。カプセルを出て船室に行くと 他の乗組員たちは記憶を変えられたのか?みんな私の存在を疑問に思わない。
あのカスピでの生活からは時が流れており 地球は目前 に迫っていた。地球からは欲望と苦しみの霊気の渦を感じる。
こんな私に一体何ができるのだろう?私の心は不安と期待に支配されていた。
地球が近づくと 我々は大変な異変に気が付いた。通信士が叫んだ。
通信士「どうも様子がおかしい。ここは我々が知る地球ではなく 過去の2004年の地球だ。一体どうなっているんだ。
我々は時空の歪に迷い込んだのか?」
この地球に帰還するケンタウルス号を見守っている者が居た。銀河連邦の円盤に乗る メコンとドナウであった。
ドナウ「これでいいのかね?女王。私としては気が進まないのだが・・・。女王、あなたは銀河の掟を破っているのですぞ。」
メコン「地球は我々にとって かけがえのない隣の文明。いつしか真の交流をするのが我々カスピ人の夢なのじゃ。
どうか最後のチャンスをお与え下され。」
ドナウ「確かにこれが本当に最後のチャンスだ。ケンタウルス号が帰還する時代では 地球は既に手遅れなのだ。
この2004年は地球のオアシスを回復できる最終分岐点なのだ。しかし愚かな地球人に はたして正しい21世紀の選択ができるのか疑問だが・・・」
メコン「地球滅亡は地球人だけの問題ではないのじゃ。我々宇宙霊界は一体なのじゃ。自分のオアシスを管理できず滅んだ 何十億という害虫霊が行き場を失い 被害が広がることになるのじゃ。」
帰還するケンタウルス号と少し老けた私
そう、21世紀の選択をするのは この物語を通じてカスピを旅した 正に我々読者一 人一人なのである。
ーTHE STARTー
あとがき
この作品は 私が社会に訴えたい事を物語に融合させたモノです
。
夢と心を失った現代社会。ほとんどの人が生活に不安を感じているそうです。
新たな理想社会とは何かと考えた時、カスピのような社会が心に浮かびました。
しかし これは単なる理想ではなく 銀河にはカスピのような文明が たくさん存在していると確信しています。
精神文明が発達せず、科学技術だけが発達してしまえば必ず21世紀の危機を迎えますが、それを乗り越え 新たな段階へ登った文明が この広い銀河には無数にあり 地球を見守っていると考えても不思議ではありません。
他人を打ち負かし、富を得て勝ち組に生き残ることが本当にカッコいい生き方なのか 今一度考えて欲しいと思います。
自己の利益からみんなの利益、そして次世代の子供達のことも考える生き方こそ これからは必要になります。
21世紀の危機を乗り越えた時、そこはゴールではなく 新たなスタートになり、今まで見えなかった新世界が見えてくることでしょう。
尚、この物語の登場人物の名は 川の名を採用し、地名は湖の名を採用しました。水辺には人々の生活があるからです。そして川は最終的には海へと注ぎます。人々の心も いずれは海のような広い世界で一つになるという願いを込めました。
この作品によって多くの人々が今の社会に疑問を持ち 新たな世界作りに少しでも貢献できればと思います。
ご購読ありがとうございました。これであなたも KANAウェーブの一員です。
気が付けば
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KANAウェーブ
キャラクター名の由来
| 川の名前 |
場所 |
注ぐ場所 |
その他 |
| 神田川 |
日本 東京 |
隅田川 |
自宅から一番近い川。 |
| 善福寺川 |
日本 東京 |
神田川 |
閑静な住宅を流れる。 |
| オビ川 |
ロシア |
オビ湾 |
|
| レナ川 |
ロシア |
ラフテプ海 |
|
| マッケンジー川 |
カナダ |
マッケンジー湾 |
|
| アムタリア川 |
ウズベキスタン |
アラル海 |
|
| シルダリア川 |
カザフスタン |
アラル海 |
|
| 漢江(ハンガン) |
韓国 ソウル |
京畿湾 |
|
| ナイル川 |
エジプト |
地中海 |
オリエント文化の象徴。 |
| セーヌ川 |
フランス パリ |
セーヌ湾 |
多くの美術作品に描かれる。 |
| チャオプラヤ川 |
タイ バンコク |
バンコク湾 |
最も生活感を感じさせる。 |
| メコン川 |
カンボジア |
南シナ海 |
|
| ドナウ川 |
中央ヨーロッパ |
黒海 |
多くの国々を潤す。 |
地名の由来
| 湖の名前 |
場所 |
その他 |
| カスピ海 |
ロシア |
|
| アラル海 |
カザフスタン |
環境破壊で無くなりつつある。 |
| ナセル湖 |
エジプト |
|
| ドーニメル湖 |
フランス パリ |
バンセンヌの森の小さな湖。 |
| トンレサップ湖 |
カンボジア |
|
| ラナオ湖 |
フィリピン |
|
| ベーネルン湖 |
スウェーデン |
|
| ベッテルン湖 |
スウェーデン |
|
21世紀の選択 第2弾 エピソード版
地球から4・3光年離れた 隣の太陽系であるケンタウルス系の第二惑星「カスピ」。そこには地球と同じ文明の営みがある。
今でこそ高度な精神文明を有するカスピ文明だが そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。
かつてカスピは現在の地球の様に自己欲にまみれ環境と経済の崩壊によって危機的状況であった。
砂漠での対決
私の名はスミダ。惑星カスピの田舎町バイカルに住む青年である。幼い頃から仲間外れで孤独な生活を送って来た。
学校嫌いで高校を中退しフリーター生活をしたが どのバイトも長続きせずブラブラしていた。
母は幼い時に他界し父に育てられた。
実家はバイク屋だったのでバイクの腕には絶対的な自信があった。
父はモトクロスのレーシングチームも持っていて私にレースの道を勧めたがチームメイトと馬が合わず 私は公道レーサーとして各地の峠で暴走ライダーとバトルを繰り返す日々が続いた。
そして全国の峠で無敵の速さを誇り、公道最速ライダーの称号をほしいままにした。
そんなある日、父のレーシングチームに私と同年の男エドが入門してきた。エドは私と違って素直で人の話をよく聞き、何でも気が付く奴だった。チームでも人気者だったが私にとっても唯一の良き相談相手であった。
エドはライダーとしても他人から何でも吸収し驚くほどメキメキと上達した。
僅か2年で国際A級に特別昇格し国内チャンピオンを狙うまでになっていた。
私はエドには絶対に負けられない得体の知れない妙なプライドに支配されていた。
エドへの敗北を恐れるようになってからというもの私はエドを避けるようになった。
そんなある日、エドは何を企んでか私を誘った。
エド「スミダ、久しぶりにツーリングにでも行かないか?今日は練習も無いし・・・。」
スミダ「別にいいけど・・・。」
私はこのツーリングが対決の場になるのでは?と恐れたが悟られたくないためか あえて拒まなかった。
我々が乗るバイクは公道走行可能ではあったがレーサーそのもののエンデューロバイクであった。
天気も良く、快適な林道走行を満喫した。
湖畔で休んでいると・・・。
エド「スミダ、天気も良い。どうだろう?ここから砂漠を超えてビワ山の頂上まで勝負しないか?」
スミダ「!!・・・・・。」
とおとお恐れていた事が現実となった。勝負を拒むことは私のプライドが許さなかった。
スミダ「国際A級になって俺に勝てるとでも思っているのか?」
私は何故か腹た立だしかった。
エド「いや、ただ自分を試したいだけだよ。」
やがて我々二人は砂漠を猛烈なスピードで走るライダーになっていた。
私は後ろを走るエドに自分の速さを見せつけんとばかりにフルスロットルを続けた。
それでもエドは離れることなく着いてくる。
この辺りから自然が作り出した凸凹による天然のジャンピングポイントが続く。
私は構わずフルスピードで次々と飛んで行った。
こんなにも本気で走ることはもしかして初めてかも知れない。峠ではいつも楽勝だったから。
それだけエドの存在が恐かった。勝つことしか知らない私にとって そのプライドはあまりに高く、傷付き易く、そしてもろかった。
私はエドを気にはなったが振り返る余裕は無かった。それに意識していることを悟られたくない。
そんな私の行く手に巨大な壁のようなジャンピングポイントが迫って来た。
それを避けては僅かに遅れてしまう。私は壁の向こうに何が待ち構えているとも知らず、フルスピードで突っ込んだ。
もう着地の計算などどうでも良かった。”敗北より死”という あまりにも若過ぎる価値観が私を支配していた。
スミダ「見ていろ!エド!!お前にこのジャンプができるか!?」
次の瞬間、バイクは宙を舞った。視界が一挙に開け、目前にゴールと決めたビワ山も迫って来た。
初めて後ろを振り返ると・・・
スミダ「!!・・・・・。嘘だろっ!!」
何とエドもバイクで空を飛んでいる。暫く我々二人は砂漠の上空を飛行した。
こんな自殺行為、エドにしたって安全なわけがない。エドにも勝たなくてはならない訳があるようだ。
この飛行中、何故か敗北の恐怖は木っ端微塵に吹き飛んだ。
公道レーサーではなくモトクロスレーサーに変貌したのだ。
それこそエドが見たかったスミダの姿であり、この勝負の目的でもあった。
やがて我々は着陸のライン取り計算に入った。
未知の衝撃、フルボトム、2次的ジャンプ。バイクの立て直しはエドが勝っていて私は初めて頭を許し、今まで経験しなかった人の背を見ての走りとなった。
そしてその差もじょじょに開いていく。
私の がむしゃらで無謀な走りと違い 無駄の無い安定したエドの走りは私を魅了し 一瞬闘いを忘れさせる程だった。
日々過酷なトレーニングに耐え、トップレーサーと闘い続けてきたエドと公道で素人レーサーを相手に得意になっている私とではその差は歴然である。
今まで人の走りなど見もせず自分の走りしか知らない私にとってエドの完成された美し過ぎる走りは私の安っぽい価値観など完全に打ち砕いてしまった。
それでも私はエドに勝つためスロットルを開け続けた。やがて私はバイクをコントロールできずに転倒し、それに気付かずエドは消え、砂ぼこりに包まれた。
野宿の旅
エドとの闘いで今までの生活に行き詰った私はバイクにテント等を載せ旅に出た。
途中途中でバイトをして食費とガス代を稼いでは移動するという生活である。
旅を続けながら色々考えた。
何故学校が嫌いで、友達をできなかったのだろう?・・・!目的が無かったんだ。何をしたいのか分からなかったから・・・。
エドみたいに目的がはっきりしている奴は良い。しかし今の社会は目的の無い迷える者で溢れている。そういう奴等が変な道に行く。でもこの社会で目的を持てというのが無理な話だ。
政治家達は私服を肥やし、民はただ非難ばかりするだけで何の解決もしようとはしない。
会社に入れば他の社員、他社と蹴落とし合い、より良いサービスのためとかほざく。
みんな調子の良いことばかりいうが結局自分のことしか考えていない。
経済的にも環境的にも崩壊に向かっていることは確かで未来に希望が持てない。
そう、
”この社会には私の居場所が無いのだ。”
夜、野宿のテントの中で泣いていて ふと夜空を眺めると そこには満天の星達が瞬いている。
スミダ「俺の悩みなんて この大宇宙に比べたら 取るに足らない事なのだどうか?」
今まで何も考えず 突っ走って来たのが嘘のようにエドの負けてからというもの考え込む日々が続いた。
ある町では配達の仕事、漁港では海も仕事、山では林業の手伝い、高原では牧場や農家の仕事、色々やった。
確かにそこには暖かい人の温もりを感じるが何処もみんな生活に追われている。
家賃、税金、生活費に縛られ人生の殆どの時間を金に支配されている。それでも彼らはそれが当然と疑問にも思わない。
当然、頭の中も金のトリコになっている。何か間違っているように思えて仕方ない。
それでも私は長期滞在する訳でなく、すぐバイクで出て一人になれたので我慢できた。
そうして時が流れていった。私は一生、自分の居場所を見付けられずにさまようのか?そんな先を考えることなく今日という日を生き続けた。
やがて国境を越え言葉も知らない国にさまよい込んだ。国境を通る度にパスポート、ビザ、書類チェックが必要で どうして人間って奴はややこしい国境なんて線を引いて殺し合いをするのだろうか?
旅をすればするほど疑問が多くなる。
砂漠超えはきつかった。食料は途中の集落で何とか調達できたがバイクのガスの調達は時には困難を極めた。時には命の危険にもさらされる。
そんなヘンピで非文明的な僻地を行くと信じられない光景を目にすることが多くなる。
道端で餓死する子供達、先進国から持ち込まれる産業廃棄物の山、先進国が切り倒したはげ山、そしてあまりに貧しすぎる人々の生活。
バイクで気楽な旅をしている自分が恥ずかしくも思えた。
危険な砂漠越え
ある日、私は危険な砂漠超えに挑んだ。砂丘でタイヤが深みにはまるのでバイクでは越えられないと現地の人は言ったが 何かに導かれるように私はバイクを走らせた。
バイクの運転では絶対的自信を持つ私でもかなりの難所だった。食料もガスも少なくなり不安になる。
砂丘を超え大地が硬くなり走り易くなったので調子に乗って猛スピードを出したところ、砂漠を走っているうちに視力の感覚が麻痺して段差を見逃し崖からバイクごと転落し、私は全身を強打し何箇所か骨折し身動きができなかった。
スミダ「ここが俺の死に場所か・・。」
私は完全に観念していた。無理もない。こんな砂漠のど真ん中で助かる道理が無いのだから・・・。
骨折であまりの激痛に私は気を失った。
その後、うつらうつら私はラクダに揺られていた記憶があったようななかったような・・・。
気が付くと私はある集落のお粗末な病院のベットで横になっていて体中包帯の姿であった。勿論動ける状態ではない。
集落にカタコトの言葉をしゃべれる者が居て彼の話によれば 接骨士が完全な治療はしたが回復には何ヶ月も掛かるのでここで気を使わずのんびりするように、そしてここには電気も無く、通信手段も無いということだった。
松葉杖で何とか身動きが取れる様になると私は集落で唯一の学校で子供達に混じって国語を習い、ここの言葉を習得していった。
この集落には警察も刑務所も法律も金も電気、ガス、水道すら無いにもかかわらず生活が成り立っている。
金に支配されない、私が求めていた何かがここにはあった。
ある日、集落の長老ガンジスに呼ばれ彼の粗末な家に行った。
ガンジス「だいぶ元気になられたのう。あの時は駄目だと思ったが・・・。」
スミダ「お陰様で・・・。本当にありがとうございます。」
ガンジス「ところでスミダ、今後の予定はおありかな?」
スミダ「いえっ、別に・・。ただ世界をさまよっているだけです。」
ガンジス「では、どうだろう?スミダ、ここで暫く落ち着く気はないかね?そしてソナタの命、私に貰えないだろうか?君には無限の可能性をかんじる。」
元々世界に居場所の無いこの身。そして何よりガンジスの目は済みきっていて一点の汚れ、自己欲さえも感じない。
スミダ「どうせ一度は死んだこの命、長老、こんな私でお役になれるのなら喜んで。」
その日以来、私はガンジスの家で住むようになり彼から様々なことを学ぶ日々が続いた。
スミダ「長老、私はこの集落でただ飯を食べている。私もみんなと働きたいのですが・・・。」
ガンジス「この集落で君にいやな顔をする者が一人でも居るかね?居ないだろう。みんな自分の役割りを心得ているのじゃ。君には君の役割りがある。余計な気使いは無用じゃ。」
一日中、勉強するのも苦痛であったのでガンジスに頼んで午前中はみんなと野良仕事を楽しんだ。
ガンジスの教えによると 世界がこのまま自己欲に任せて経済競争を続けたら 自然破壊によって世界が近いうちに滅ぶという事実。そしてこの集落だけの幸福はありえず全人類は運命共同体であることであった。
ガンジスの企みは全世界を変えること。その手段として武力、正論武装、金や権力は何の役にも立たないと言う。
変える手段は人々の心であり、先ずは新しい価値観を提案することである。
私は後で知ったがこの集落はエリーといい、ヒューロン共和国という貧しい国の一部であった。
ガンジスはこの国の政治家でもあって、大統領を操る権力をも持っていた。
彼は私にヒューロン共和国の大統領になれと言う。全てはそこから始まるのだと言う。
しかし、国連加盟国でもない こんな小さな国の大統領になったところで世界は何も変わらないだろうに・・・。
ガンジスは私に打ち明けた。
ガンジス「私の野望は世界征服じゃ。そのためには武器も金も権力も不要でな。スミダ、君の力が要るのじゃ。」
スミダ「冗談じゃない!私にそんな力、能力はありません。」
ガンジス「いや、君はまだ自分の価値を知らんじゃろ。君がここに運ばれたのは偶然でない。神のお導き、必然だったのじゃ。君の目は常識の流れに流されることなく、独創性に満ちている。君がこの国を治めるのじゃ。」
つづく